2022年 10月30日

 この週は概ね良く晴れた。始めの月曜日の夜に雨が降ったが、これは丹沢の高い所では雪になった。朝晩は気温が一桁になり、やがて晩秋から初冬という言葉がふさわしくなってくるのだろう。ケヤキの木々も、色付き始めた。

 最近、薪ストーブって、他の暖房手段と比べてお金がかからないのかと聞かれる事があった。やはり、このところの石油やガスや電気代の高騰をうけて、薪ストーブの方が割安なんじゃないかと考える人もいるらしい。まあ、山に住んでいるとそんな気持ちになるのも判る。なにしろ周りじゅう燃料だらけに見える事だろう。

 この問、なかなか答えるのが難しい。「ひとそれぞれ」と言ってしまえば一番楽なんだけどね。

 まず、薪ストーブに不向きな家庭というものがある。薪ストーブは他の暖房手段と違って、スイッチ一つで暖房を停止できるものじゃない。薪の投入を停止しても、その後、何時間も火は燃え続ける。こういうのって、夫婦が共働きで早朝に出勤して、その後夜まで家に誰もいなくなるような家庭では使いにくい。まあそれでも、休日だけでも使う、と言うのならそれでも構わないけれど。

 次に、薪ストーブは本体が高価だ。2~30万するのもざらで、またストーブ本体だけではなく煙突も高い。設置工事費も高い。全部合わせると軽自動車1台分くらいにはなる。もっと格安のストーブも煙突もあるけれど、そういうのは耐久性が悪かったり、煙突掃除の回数が多く必要になったりと、デメリットが増えて来る。

(高価な煙突・・・断熱性の優れた二重煙突・・・だと、良く乾いた良質な薪を使えば、一冬使っても、煙突の内側に付く煤は数ミリ程度の厚さで収まる。もっともこれも、煙突の形状で煤の付き方もかわってくるのだけど)

 それでも、理想的なストーブを買って、さあ後は薪の確保だけで、もう石油代から解放されるかといったらそうもいかない。案外、この薪の確保が一番大変かもしれない。

 近所に大工さんの友達がいたら、廃材を多量にもらえるかもしれない。でも建築に使われる木は、杉や桧といった針葉樹で、こういった木は軽くて、簡単に燃えるけれど燃え尽きるのも早い。じっくりと長く燃え続けて熱を発してくれる広葉樹の薪となると、入手の道が急に小さくなる。また、広葉樹の薪が金で買えるとしても、けっこう高価になる。金で広葉樹の薪を買おうと思ったら、もう薪ストーブが他の暖房手段と比較して割安にならないか、という期待は諦めた方が良い。

 そうなると、自分でチェーンソーを使って木を伐って、自分で薪割りをして、自宅に作った薪棚に薪を乗せて最低半年かけて乾燥させ(できれば1年)、薪の用意に長い時間を割くしかなくなる。ここまでくると、薪ストーブはもはや単なる暖房手段と言うよりも、趣味に近い。人生の時間の一部を、薪ストーブに費やすようなものだ。

 逆に言えば、「趣味」としての薪ストーブを楽しむつもりなら、それはそれで幸福な事だと思う。

 長々と薪ストーブに対して否定的な事を書いてしまったけれど、あらゆる暖房手段の中でも、暖かさの質を考えた場合、薪ストーブの暖かさは最高級品だと思う。とにかく、それ以外の暖房手段がすべて安っぽく感じてしまう程度には、暖かさの質感が素晴らしい。こればかりは、実体験してもらうしかないなぁ。

 もう一つ、山里で薪ストーブを使う価値として、自分が暮らしている家の周辺が綺麗になる事があると思う。台風なんかがあると倒木も出てくる。そんな倒木の中には、道をふさいだり、町の美観を損ねるものもあるだろう。でも薪ストーブ利用者にしてみれば、そんな倒木も有難い燃料だ。ハイエナのように、いそいそと持って帰る(酷い言い方だ)。

 まあ、「山の掃除屋」としての役割もあるんですよ。薪ストーブ利用者って。

 ここまで書いて来た事をひっくり返すようだけど、安いストーブと安い煙突で、安く設置して、建築廃材のようなただ同然の燃料を使う薪ストーブのある生活も良いと思ってる。いきなり100万円近い出費から始めるよりも、最初は数万円から始めるような敷居の低さも重要だと思うから。

 始めは安く出発して、それにハマれば、そこからレベルアップすればいいことだ。

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